法楽日記

デジタル散策記&マインド探訪記

井山裕太(著)「勝ちきる頭脳」

井山裕太(著)「勝ちきる頭脳」を読みました。

著者は囲碁界で数々の記録を持つ、日本の囲碁界の第一人者です。1989年(平成元年)生まれの31歳と若いですが、2016年と2017年に囲碁界の七大タイトルを独占し、2018年には将棋の羽生善治さんと同時に国民栄誉賞を受賞したことから、囲碁ファンでなくても名前を聞いたことのある人は多いのではないかと思います。

囲碁は先手が有利なので、後手は「コミ」と呼ばれるハンデをもらって対局に臨みます。「コミ」のお蔭で、双方がベストをつくすとほぼ互角な戦いとなるそうです。しかしながら、何を持ってベストと判断するかのモノサシは棋士によって異なるようです。そのため、たとえ棋力がほぼ同じであったとしても、対局者のモノサシのわずかな違いが積もり積もって、100手200手と進むうちに勝敗を分ける大きな違いとなって現れてくるそうです。

例えば、失敗を恐れず常に100点を目指す棋士もいれば、リスクを避けて95点の堅実な手を選ぶ棋士もいるそうです。それが吉と出るか凶と出るかは、点数だけでは計れない棋士の個性との相性があるようです。著者は前者のタイプだそうですが、そのような打ち方が著者の棋士としての個性ととても相性がよいそうです。

この話は現実世界を生きていく上でも、とても参考になると思いました。常に100点を目指すと、万一の見損じに対して無防備で、手痛い思いをするかもしません。しかし手痛い思いをするからこそ、失敗が成功の元に転じてくれるのかもしれません。一方で、常に95点を目指していると、予想を超える成功は望めない代わりに、どんな見損じがあっても最悪の事態は避けられるのではないかと思います。

これはどちらが優れているかという話ではなくて、場面によって、あるいは役割によって、適切な方を選ぶのがよいのではないかと思います。野球で喩えるなら、四番打者と抑え投手の違いかもしれません。サッカーで喩えるなら、フォワードとディフェンダーの違いかもしれません。企業で喩えるなら、ベンチャー系とインフラ系の違いかもしれません。

この本には、著者の勝負に対する考え方や、日中韓囲碁界の違いなどが書かれていて、とても興味深く読むことができました。機会があれば、いつの日か読み直してみたいと思いました。