法楽日記

デジタル散策記&マインド探訪記

「愛の反対は憎しみではなく無関心です」は誰の言葉か?

「日の下に新しきものなし」(旧約聖書 伝道の書 第1章第9節)
(There is nothing new under the sun. - Ecclesiastes 1:9)

イデアにしろ言葉にしろ、初めて言ったのは誰かを特定するのはとても難しいことのようです。

古来より様々な表現で伝えられていたことでも、ある時、ある人が発した言葉が世間の注目を集めて、その人が生み出した言葉であるかのように広まることは、よくあることなのかもしれません。あるいは、ある人の言葉が伝言ゲームの中で形を変え、発言者も変えて広まっていくことも、よくあることなのかもしれません。

英語の格言集を見ていると、これは○○さんの言葉と言われているもののどの文献にも見当たらず、代わりに○○さんの文献に登場する、というのはよくあるようです。例えばアインシュタインに仮託されている格言は多いようです。


「愛の反対は憎しみではなく無関心です」

この言葉は、修道会「神の愛の宣教者会」の創立者であり、1979年のノーベル平和賞でもあるマザー・テレサの言葉だと聞いたことがあります。しかし、そのように言われているのは日本だけのようです。

マザー・テレサに仮託されたきっかけは、1981年度の公共広告機構の広告作品『私たちの敵は無関心です』だった可能性が考えられるようです。この広告作品の演出は、映画『マザー・テレサとその世界』(1979年)の監督である千葉茂樹さんが担当されたそうです。


英語で検索してみると、アウシュヴィッツ収容所体験者で、1986年のノーベル平和賞受賞者でもあるエリ・ヴィーゼルの言葉として有名なようです。以下に引用します(引用元)。

The opposite of love is not hate, it's indifference.
The opposite of art is not ugliness, it's indifference.
The opposite of faith is not heresy, it's indifference.
And the opposite of life is not death, it's indifference.
Because of indifference, one dies before one actually dies.

(US News & World Report, 1986-10-27)

以下は私訳です(5行目は意訳です)。

愛の反対は憎しみではなく無関心です。
美の反対は醜さではなく無関心です。
信仰の反対は異端ではなく無関心です。
生の反対は死ではなく無関心です。
無関心こそが、生きながらの死を作り出すのです。


さらに調べてみると、最も古いフリースクールと言われている「サマーヒル・スクール」の創立者であるアレクサンダー・サザーランド・ニイルの1973年の著書に次のように書かれているそうです。表現は微妙に違いますが、同じ趣旨の言葉です(引用元)。

Love and hate are not opposites.
The opposite of love is indifference.

(Alexander Sutherland Neill (1969).
“Summerhill: a radical appoach to education”)


キリスト教圏では「love」は重要な概念ですから、同趣旨のことが別の表現で言われ続けてきた可能性は高いと思います。

例えば、1897年にジョージ・バーナード・ショーが書いた演劇『The Devil's Disciple』の中に次のように書かれているそうです(引用元)。

The worst sin towards our fellow creatures is not to hate them,
but to be indifferent to them: that's the essence of inhumanity.

この文章では「the opposite of love」の代わりに「the worst sin」と書かれていますが、趣旨は同じだと思います。


もっと探せばもっと古い言葉が見つかるのではないかと思います。キリスト教の文献に詳しい人に聞けば、古文書に古語で書かれた言葉を教えていただけるかもしれません。しかし今日のところはこの辺で…

以上、私が一人で調べたかのように書いていますが、実際にはネット上の様々な記事に教えていただいたことを裏取りしながらまとめたものです。特に下記記事が参考になりました。御礼申し上げます。