だいぶん前に聞いた話です。同じような話を時々聞くので、ひとつにまとめて架空の地域の架空のお話にしてみました。
(1)道を開く
もう何十年も昔のこと、あるところにアル村(A村)と呼ばれるムラがありました。食べ物はある程度自給できたので、足りないものだけをムラのお店で買ってました。
あるとき、隣のビックリ町(B町)との間に自動車が通れる道が開通しました。アル村の人たちから見ると、ビックリ町は驚くほどの都会で、お店に行けばなんでも手に入りました。人々は便利さを求めて、時々ビックリ町まで買い物に出かけるようになりました。
やがて、ビックリ町とシティ市(C市)をつなぐ道路が整備されて、往来が簡単になりました。ビックリ町の人たちはシティ市に買い物に出かけるようになり、ビックリ町の商店街は次第にさびれていきました。仕方がないので、アル村の人たちもシティ市まで買い物に出かけるようになりました。
さらに、シティ市とデッカイ市(D市)を結ぶトンネルが完成して、往来が簡単になりました。シティ市の人たちはデッカイ市に買い物に出かけるようになり、やがてシティ市の商店街は次第にさびれていきました。仕方がないので、ビックリ町の人たちも、デッカイ市に買い物に出かけるようになりました。アル村の人たちも、頑張ってデッカイ市まで買い物に出かけるようになりました。
(2)道を進む
デッカイ市が広い商圏の中心地になったので、アル村の若者たちも、ビックリ町の若者たちも、シティ市の若者たちも、デッカイ市で働くようにになりました。通勤や暮らしの便を考えて、若者たちの多くはデッカイ市で生活を営むようになりました。そしてデッカイ市から離れるほど、若者の姿が見られなくなっていきました。
(3)道に迷う
時が経ち、みんな歳を重ねていきました。若者たちも、その子どもたちも、デッカイ市での暮らしに馴染んでしまって、故郷に帰るつもりはありません。ところが親世代は足腰が弱って、判断力も弱って、デッカイ市まで買い物に出かけることが辛くなってしまいました。しかし時代は変わって、買い物ができないと暮らしが成り立たなくなっています。
はてさて、アル村や、ビックリ町や、シティ市の人たちは、これからどうやって暮らしていけばよいのでしょう… いつの間にか、空き家が少しずつ目立つようになってきました…
(4)道はどこへ
便利な暮らしを求めたつもりが、そして素晴らしい未来を切り開いたつもりが、どこかで間違って、天に向かって唾を吐いてしまったのでしょうか… それとも、どこかの誰かに、知らないうちに大切な何かをかすめ取られてしまったのでしょうか… あるいは、秘された明るい未来が待っているのでしょうか…