（１）自己否定の反動
自己否定の強い人の中には、その反動で、自分のことを非常に優秀だと思いたい人がいます。そのような人は、自分の「信念世界」に「自分は非常に優秀だ」と力強く書き込んでいます。
最初のうちは技能を伸ばすために一所懸命に勉強したり練習したりするようですが、やがて周りの人たちを見下して威張り散らしたり、エライ人たちに一所懸命に取り入るようになります。特に、人事権を持つ人や予算権を持つ人に対して熱心なようです。うまく気に入ってもらえると、重要なポストに抜擢されたり、予算を潤沢に使えるようになったりします。その頃には表面的な勉強しかしなくなっています。
そのような人を、以下では仮にAさんと呼ぶことにします。
（２）濡れ衣
あるところに、Aさんよりも遥かに優秀なBさんがいたとします。客観的に見ると、Aさんは知識面でも技能面でもBさんにはまったくかないません。ところが、Aさんの「信念世界」には「自分は非常に優秀だ」と書かれています。Aさんから見ると、Bさんは自分の「信念世界」を破壊しかねない人物です。
幸い、Aさんは上層部に気に入られているので、上層部の「信念世界」にも「Aさんは非常に優秀だ」と書かれています。多くの人は上層部の意向を尊重するので、多くの人の「信念世界」にも「Aさんは非常に優秀だ」と書かれています。したがって、Aさんとしては自分の「信念世界」を内部崩壊させる必要はないと判断します。
その結果、Aさんにとっては、Bさんは自分の「信念世界」を攻撃する悪者として退治すべき存在となります。すなわち、Bさんの言動ひとつひとつが、Aさんの「信念世界」に対する攻撃に見えるようになります。Bさんの言動を見るたびに、怒りの感情が湧き上がってくるとともに、自分のマイナス・イメージをBさんに幾重にも被せるようになります。
繰り返しになりますが、Aさんの自己否定の気持ちが強ければ強いほど、「自分は非常に優秀だ」という思いも強くなり、自分の「信念世界」を攻撃されたときに怒りの感情も強くなります。また、Aさんの自己否定の気持ちが強ければ強いほど、自分に対するマイナス・イメージも強烈なものとなっています。そのため、AさんがBさんに被せるマイナス・イメージは猛烈に強烈なものになっていきます。
このようにして、Aさんの心の中で、Bさんは猛烈にデタラメで悪徳な人物に仕立て上げられていきます。
以上はすぺて、Aさんの潜在意識のどこかにおける判断です。顕在意識はその判断を鵜呑みにします。したがって、Aさんの顕在意識から見ると、Aさんこそが非常に優秀な人物で、Bさんは正真正銘の猛烈な悪党となります。
（３）孤立
そうなってしまうと、Aさんとしては、Bさんに対する怒りがおさまりません。あまりに腹が立つのでAさんはBさんと顔を合わせたくありません。やむをえず顔を合わせるときは、睨みつけたり、凄んだりします。その代わりに、Aさんは自分の話を聞いてくれる人を回って、Bさんが猛烈にデタラメで悪徳な人物であることを触れてまわります。
ここでは、仮にAさんはCさんに話をしたとします。Aさんの怒りがあまりに激しいので、Cさんは裏取りしないでそのまま鵜呑みにしてしまいます。その結果、Cさん自身の「信念世界」に反する言動について猛烈な怒りの感情が湧き上がってくるとともに、Cさん自身のマイナス・イメージをBさんに被せるようになります。そして、そのような視点からBさんを見るようになって、噂話に尾鰭をつけます。Cさんはあまりに腹が立つので、自分の話を聞いてくれる人を回って、Bさんが悪烈な人物であることを触れてまわります。こうして、様々な尾鰭が雪だるま式に付け加えられながら、Bさんの悪い噂話がどんどん広がっていきます。
このようにして、たくさんの人の心の中で、Bさんは猛烈にデタラメで悪徳な人物であると位置付けられるようになっていきます。やがて、Bさんと親しくすること自体が悪徳と見なされるようになります。この状況をBさんから見ると、四面楚歌の村八分状態です。何が起きたのか、Bさんにはまったくわかりません。
（４）蟻地獄
Bさんの周りの人から見ると、Bさんは猛烈な悪党です。そこで、親切な人の中にはBさんに心を改めてもらおうとする人が現れます。
例えば、遠回しに示唆しようとする人がいたとします。ところが、Bさんには単なる世間話にしか聞こえないので、普通に相槌をうちながら聞くことになります。親切な人には「Bさんのことを思って示唆をしたのに、しらばっくれやがって、ひどい奴だ」と見えてしまって、それが噂として広がります。
あるいは、具体的に指摘しようとする人がいるかもしれません。ところが、Bさんからすると事実無根の話なので、否定するしかありません。親切な人には「Bさんは自分の悪事を認めようとしない大嘘つきだ」と見えてしまって、それが噂として広がります。
このように、Bさんはまるで蟻地獄に陥ってしまったかのように、どんどんと評判を落としていきます。理由がまったくわからない中で、事態を改善しようとすればするほど、蟻地獄に深くはまってしまいます。最初のうちは開き直っていても、やがて逃げ出す以外の解決策が見出せないような状態に追い込まれてしまいます。
（５）おわりに
以上で見てきたように、Aさんのように自己否定が非常に強くて、自分の「信念世界」に「自分は非常に優秀だ」と書いている人がいると、（１）上層部に上手に取り入って重用されるようになり、（２）自分より優秀な人を悪党に仕立てて追い出していきます。
Aさんは上層部から見ると頼りになる優秀な人物に見えるようですが、Aさんの実態を知る人たちからは排除すべき人物に見えます。また、Aさんに追い出された人からは、とんでもない人物に見えます。
心の動きの法則を知っていると、このような現象が起きる理由が説明できます。今回舌足らずだった部分については、追い追い補足していこうと思います。
