法楽日記

デジタル散策記&マインド探訪記

二面的人格

(1)夢の功罪

資本主義ではお金儲けが重視されます。お金を儲けることで生活が安定したり、世の中に貢献できたりします。お金儲けを共通目的として持つことで、思想信条を超えた協力関係を生み出すことができます。その一方で、お金儲けのためなら他人や大自然を躊躇なく踏み潰すことができます。また、お金儲けに興味のない人は社会の辺縁で生きていくことになります。

日本では出世が重視されます。出世することで生活が安定したり、世の中に貢献できたりします。出世を共通目的として持つことで、思想信条を超えた協力関係を生み出すことができます。その一方で、出世のためなら他人や大自然を躊躇なく踏み潰すことができます。また、出世に興味のない人は社会の辺縁で生きていくことになります。

一般に、特定の欲望を共通目的として持つことで、思想信条を超えた協力関係を築くことができます。同時に、他人や大自然に躊躇なくシワ寄せできるようにもなります。善行は見えるところで、悪行は見えないところで行われます。また、欲望を共有できない人を弾き出す排他的な側面を持っています。

欲望は人々を表面的に輝かせる一方で、心の目を曇らせる働きがあるように思います。


(2)三層構造

私は最近、心の構造を「ドロドロ」「ハリボテ」「ナリキリ」の三層構造で考えています。心の傷や欲望がドロドロ、なりたい姿がハリボテ、演じている姿がナリキリです。演劇に喩えると、ドロドロは作家、ハリボテは世界設定、ナリキリは即興役者にあたります。

前述のお金儲けや出世はドロドロにあたります。ドロドロは心の傷や欲望に基づいて世界設定とシナリオを作り、状況に応じて書き換えていきます。そうやって作られたハリボテをナリキリが演じます。その結果、思想信条を超えた協力関係を結んだり、弱者や大自然を踏み躙ったりします。


(3)例えばの話

例えば、Aさんが自分の出世のためにBさんを利用しようとしたとします。

まず、Bさんの状況を聞いて、話をつまみ食いして、Aさんに都合のよいストーリーを作ります。そして、Bさんの知らないところで噂話として広めます。「Bさんは××という状態にあってとても困っています。Aさんは○○という状態にあるのでBさんを助けることができます。みなさん、Bさんのために協力してください!」

一方、AさんはBさんには別の話をします。「困っているから助けてください!」

Bさんは人助けだと思って、自分のことを後回しにしてAさんに協力します。ところが一所懸命に協力すればするほど、Aさんからの要求が大きくなります。Bさんはこれ以上自分のことを後回しにできないと思って協力を終了しようとすると、Aさんは怒り出します。そして自分の利益ばかり主張して、怒鳴って暴れて騙してイジメ倒して、自分の要求を実現させようとします。Bさんから見ると、Aさんはチンピラを通り越して悪魔にしか見えない状態になっていきます。

Aさんの要求がすべて実現すると、Aさんは成果を独り占めします。そして新たな要望を怒鳴り始めます。

困り果てたBさんが断固拒否すると、Aさんは新たなストーリーを作って、Bさんの知らないところで噂話として広めます。「Bさんは恩知らずで卑劣な奴だ!」

やがてBさんの社会的信用は失墜して居場所を失います。Bさんの体験談は、Aさんが広めた噂話とあまりに駆け離れているため、Bさんは嘘付き呼ばわりされます。逆に、Bさんには周りの人たちが何の話をしているのか、何を怒っているのか、話が噛み合わなくてまったくわかりません。一方のAさんは、善行の人として、またよき成果を出したと人して、ますます尊敬を集めます。


(4)独善者

Aさんはドロドロが発達した人でした。ドロドロは欲望に基づいて世界設定とシナリオを作ったり、状況に応じて書き換えるのがとても得意でした。また、Aさんのナリキリは名優でした。ハリボテ(世界設定と2種類のシナリオ)に忠実に、その場その場で求められる名演技を繰り広げることができました。

ドロドロは潜在意識に、ハリボテとナリキリは顕在意識に位置しています。

ドロドロは法律も道徳も現実も無視して、名人技でハリボテ世界を創作・編集します。潜在意識で行われているので、顕在意識からは見えません。そのため、顕在意識はハリボテの内容に一点の疑いも持ちません。「正義は我にあり」と信じて、精力的に行動します。

Aさんの周りは、Aさんの話を鵜呑みにできる人ばかりです。Aさんは日頃から手間暇かけて、様々な立場の人を籠絡しているからです。Aさんのドロドロは、それを前提としてハリボテを創作します。

すなわち、Aさんが欲望を実現できる大きな理由は、(1)ドロドロとナリキリが発達している、(2)様々な立場の人を籠絡している、の2点ではないかと思います。この2点さえあれば、実力と関係なく出世できるようです。

傍目には不思議なことですが、AさんのドロドロはBさんを本気で食い物にできる一方で、Aさんのナリキリは本気でBさんを助けたいと考えていました。ドロドロが発達した人は、2種類のシナリオを同時存在させることができるようです。そして、その矛盾を見て見ぬふりができるようです。

※AさんはBさんの前では「人生を捨てて、財産を捨てて、俺様のために奴隷となって尽くすことこそが、人間としての最高の幸せだ」「お前の幸せのために心を鬼にしているのだ」と本気で主張できる人でした。Aさんはこの世で自分は特別な存在だと心底信じているようでした。ドロドロの影響下にあったのだと思います。一方でAさんは周りの人たちに対して、自分はいかにBさんに尽くしているか、Bさんはいかにダメ人間か言いふらしているようでした。ハリボテの影響下にあったのだと思います。


(5)善人と悪人

Aさん自身は、自分の潜在意識に潜むドロドロの存在に気付いてません。ハリボテに基づいてナリキリを演ずることこそが道徳的なことだと信じています。

とはいえ、Aさんの意識にドロドロの影が映る瞬間が稀にあります。想定外の状況が発生して、ドロドロがハリボテの修正に躊躇した瞬間です。ナリキリが何を演じるべきか見失った瞬間、意識の焦点がナリキリからドロドロに移行することがあります。そして普段とはまったく異なる内面を見てしまいます。

瞬間的なことなので、すぐに忘れてしまうこともできます。しかしもしも、わずかでも記憶に残っていたならば、そしてその記憶が少しずつ蓄積されていったなら…、やがてドロドロの存在に気付くことができるかもしれません。

「善人なをもて往生をとぐ、いはんや悪人をや」

親鸞の言う「善人」はドロドロの存在に気付いてない人、「悪人」はドロドロの存在に気付いた人のことかもしれません。


(6)オープンとクローズ

Aさんタイプの人の物事の進め方の特徴は、情報を相手や場面に合わせて小出しにすることにあります。おそらく、ドロドロが上手に指揮しているものと思います。

ハリボテの全体像を知っているのはAさんだけなので、話の矛盾に気付かれる心配はほとんどありません。仮に怪しまれても、その場で話を修正して誤魔化すことができます。万一、噂話の全体像を聞き取り調査しようと言う人が現れたとしても、誰が何を知っているのかまったくわからないので、手間暇ばかりかかって、やがて時間切れになって忘れ去られてしまいます。

逆に言えば、あらゆる情報がオープンになっているところでは、Aさんタイプの人は棲息することができません。そこで、Aさんタイプの人は徒党を組んで、もっともらしい理由を作っては情報を隠そうとします。


(7)狩猟者と獲物

喩えるなら、Aさんのドロドロは肉食獣です。ちょうどお腹を空かせていたところに、たまたまBさんが通りかかったので、獲物としてパクリと食べてしまいました。Aさんのドロドロにとっては、いつもの狩猟の一環です。なんのためらいもなかったのではないかと思います。

一方、Bさんにとっては予想もしなかった巨大な不幸でした。精神的な苦痛が長期に渡って続くかもしれません。しかしひょっとしたら、Bさんはそのような運命にあったのかもしれません。あるいはBさんの精神的成長のためには必要な体験だったのかもしれません。どのように感じるかによって、長引き方が異なるのではないかと思います。

一般論としては、ドロドロが似ている人どうしは、なんのかんのと言いながら引き寄せあって、良きご縁や悪しきご縁が結ばれやすいのではないかと思います。また、ハリボテが似ている人どうしは、馬が合いやすいのではないかと思います。もしかしたら、ドロドロが引き寄せた、避けがたい出来事だったのかもしれません。


(8)探求

最近は、ドロドロ・ハリボテ・ナリキリを前提としてものを見ています。

多くの人は、大なり小なりドロドロを持っていて、大なり小なりハリボテを作っていて、上手い下手はあってもナリキリを演じているのではないかと思っています。すなわち、ドロドロとハリボテに操られているのではないかと思っています。

そのため、ドロドロとハリボテを小さくしていくことが重要ではないかと思っています。ハリボテは常識や噂話を取り込むので、事実と想像を区別する目を持つことも重要ではないかと思っています。私がこんな風に感じていると言うことは、私自身にとって、これはとても重要なことなのかもしれません。それに加えて、できることなら「幼な子の視点」に戻りたいと思っています。

世の中には様々な問題があります。そういった問題に直接取り組むよりも、心の構造を探求する方が、今の私には必要なことのように思っています。そこで、私なりに仮説を立てては検証することを繰り返していきたいと思っています。その過程で得た視点を通して、世間の様々な問題を眺めてみたいと思っています。やっぱり変な人ですね。。