法楽日記

デジタル散策記&マインド探訪記

認識力の地平線が、足元にある人、無限の彼方にある人

(1)教科書

例えばある分野について勉強しようと思って、教科書を買ってきて勉強を始めたとします。仕事の幅を広げるためかもしれませんし、資格取得のためかもしれません。あるいは人間の幅を広げるためかもしれません。

動機はともかく一所懸命勉強して、基本問題も応用問題も難なく解けるようになったとします。そこまで勉強すると、その分野について「ものすごく」詳しくなったような気がしませんか?

しかし実際には、教科書に書いてあることは入門レベルです。教科書を十分に理解できて、あるいは資格を取得できて、ようやくその分野の入口に立ったばかりと考えた方がよいと思います。本番はこれからです。

したがって、「ものすごく」詳しくなったと思ったのは素人だからこその錯覚で、実際には「門外漢」から「初心者」へとレベルアップしたに過ぎないと思います。


(2)半径1mで生きる

ところが、世の中には「ものすごく」詳しくなったという誤解を抱いたままの人たちが時々います。おそらく、「俺様はエライ」という誤解があまりに気持ちよくて、そこから抜けられないのだと思います。

彼らにとっては、教科書がすべてなのです。恐ろしく偉大な権威なのです。本当はその分野は広大で奥深くて地平線の遥か彼方まで広がっているにも関わらず、彼らは教科書に書かれている半径1mの範囲がすべてだと思ってしまうようなのです。そして、わずか半径1mの範囲内について、表面的な勉強を続けることで自尊心をくすぐっているようなのです。

そして思うのです、「俺様はますますエラくなってるぞ」と…


(3)半径無限大で生きる

一方で、教科書に書かれていることは入門レベルだと知っている人は、教科書をマスターしたら、次のステップへと進んでいきます。そして知識を吸収しながら体験を積み重ねて、知見をどんどんと深めていきます。それを何年、何十年と続けます。

仮に世間から人間国宝と呼ばれるようになったとしても、一生をかけてもその分野を究めきれないことを心の底から知っているので、研鑽を怠ることはありません。


(4)世間の評価

かなりデフォルメして書きましたが、このような大きく分けると二つのタイプがいるように思います。

ところが、前者のタイプ(半径1mで生きている人)は、後者のタイプ(広大な世界を歩む人)をまったく理解できないようなのです。それどころか、思いつきでデタラメな言動を繰り返しているように見えてしまうようなのです。そして、ものすごくバカに見えて、腹が立って仕方がないようなのです。

しかし仮に、後者のタイプの人が立派な肩書・経歴・受賞歴を誇っていれば、その思いをグッと飲み込むようです。ところが、どのような人物かを知らない場合は、ついつい上から目線で攻撃的な態度を取ってしまうようなのです。そのような態度を取ってしまうのは、「俺様」の自己否定の心が疼くからではないかと思います。

そうやって上から目線で攻撃的な態度を取ると、実態を知らない人から見ると「俺様」の方がエラく見えてしまうようなのです。周りの人のそのような反応が「俺様はエライ」という気持ちをくすぐるのでしょうか、「俺様」は攻撃的な態度を繰り返してしまうようです。

その結果、コミュニティの中では、前者のタイプ(半径1mで生きている人)が非常に高く評価されて、後者のタイプ(広大な世界を歩む人)が軽蔑されて冷遇されるという事態が起きることがあるようです。


(5)社会的待遇

例えば、ある会社が入社試験を行ったとします。

前者のタイプ(半径1mで生きている人)は試験範囲について十分に対策して、よい点を取ったとします。ところが後者のタイプ(広大な世界を歩む人)はあまりに詳し過ぎて、採点者の理解を超える回答を書いて、悪い点しか取れなかったとします。その結果、前者のタイプ(半径1mで生きている人)が幹部候補生として特別待遇で入社して、後者のタイプ(広大な世界を歩む人)は各社で不採用となり非正規雇用の道を選ぶことになったとします。

仮にそのような事態があちこちで繰り返さると、前者のタイプ(半径1mで生きている人)が社会的に優遇され(上級市民となり)、後者のタイプ(広大な世界を歩む人)は社会的に冷遇されて(下級市民となって)しまいます。

はたしてこれは、デタラメな思考実験でしょうか、それとも世の中で広く見られる現実を反映した思考実験ものでしょうか…


(6)ダニング=クルーガー効果

話は大きく変わって、「ダニング=クルーガー効果」と呼ばれる認知バイアスがあるそうです。

その仮説によると、能力の低い人は自分の能力を過大評価し、能力の高い人は自分の能力を過小評価する傾向が見られるそうです。

このような傾向があることは私もだいぶん前からなんとなく気付いてましたが、その検証実験をして論文誌に採用されるレベルの論文に仕上げたところがなんともすごいと思います。(この研究は2000年にイグノーベル賞「心理学賞」を受賞したそうです)


(7)もうひとつの認知バイアス

昨日「ダニング=クルーガー効果」について読んで、今日のような作文を書きたくなりました。

簡単に言うと、能力の低い人は、能力の低い人を過大評価し、能力の高い人を過小評価する傾向があるのではないか?現代社会全体がそのような傾向にあるのではないか?という仮説(空想段階)です。

はたしてこの仮説はデタラメな妄想でしょうか、それとも現実でしょうか…