法楽日記

デジタル散策記&マインド探訪記

俺様はエライと思わないと生きていけない人たちの苦しみ

(1)マグマ溜り

人はみな、心に傷を持っていると思います。また、多かれ少なかれ、自己否定の心も持っていると思います。どちらも心の奥底に押し込めて封印して、なかったことにしているのではないかと思います。

しかし、仮に顕在意識から見えなくなったとしても、潜在意識からは丸見えです。心の傷や自己否定の心は潜在意識の中で巨大なマグマ溜りとなって、重低音の地響きを立てながら蠢いています。そしてちょっとしたきっかけで、様々な感情や衝動へと形を変えて、顕在意識に向けて噴火していきます。顕在意識はその勢いに逆らうことはできません…


(2)噴火

自己否定の心は様々な形で噴火します。

例えば、ある人たちは自己否定の反動で「俺様はエライ」と思い込まずにはいられません。代表して架空の人物Aさんに登場してもらいます。

Aさんは無意識のうちに身の回りの人たちを「上中下」の3段階に分類します。見上げる人、同程度の人、見下す人、の3種類です。分類は主観的で、Aさんの人物を見る目、能力を見る目に依存します。Aさんは「見上げる人」の前では良い子ちゃんですが、「見下す人」の前では尊大で横暴です。そのため人によって評価が全く異なります。

Aさんは自己否定の心が強いので、ちょっとしたことで怒りの感情が噴火します。身の回りの人の言動の中に、自分の嫌いなところを見てしまうからです。特に「見下す人」に対して顕著です。あまりに腹が立つので、「見下す人」たちがバカに見えて仕方がありません。そして「あいつはこんな風にバカだ」「こいつはこんな風にバカだ」と言いふらしたくて仕方がなくなります。聞いてくれる人を見つけると、日頃の鬱憤(うっぷん)をぶちまけます。ものすごい剣幕でまくしたてるので、話を聞いた人は本当のことだと思うことが多いようです。特に「見上げる人」に分類されている人から見ると、いつもやけに丁寧なAさんが激しい怒りをぶちまけるので、本当のことだと思ってしまう率が高いようです。やがてAさんの妄想はコミュニティーの常識となっていきます。

そうやって悪者に仕立て上げられた人は、知らないうちにコミュニティーから締め出されます。四面楚歌になって、冷遇されて… 万一、会社や学校でこのようなことが起きると、悪者に仕立て上げられた人たちの人生は破壊されてしまうかもしれません。Aさんにとっての「見上げる人」は、経営陣や教師陣やリーダーなど強力な権力を持っている人だからです。


(3)精一杯

しかしそれでも、Aさんは精一杯生きています。Aさんなりに必死で生きています。自己否定の心で押しつぶされそうになりながらも、身の回りの(妄想上の)悪党たちと必死で闘って、なんとかかんとか生きています。仮に傍目には迷惑な生き方に見えたとしても、Aさんなりのベストを尽くして必死の思いで生きています。

喩えるなら、将棋の「歩」が前に一歩ずつしか進めないように、今のAさんにはそのような生き方しかできません。将棋の「歩」がやがて「と金」に成るように、Aさんもやがて人が変わる日が来るかもしれません。それまでは今の生き方しかできません。

そんなAさんを責めることは簡単です。

しかし、「見下す人」からの声に耳を貸すことはないと思います。「見上げる人」からの声も、聞いたふりだけして馬耳東風で終わると思います。ですから、Aさんを責めても何も変わらないと思います。責める人の自己満足で終わる可能性が高いと思います。


(4)消去

では、どうすればAさんは救われるでしょうか。

根本的には、自己否定の心を消すことだと思います。

表面的な言葉がけでは何も変わらないと思います。例えば「あなたは○○だからすごい」と伝えたとしても、自己否定の反動としての「俺様はエライ」という気持ちが、くすぐられるだけで終わると思います。下手をすると思い上がりが強くなって、却って症状を悪化させてしまうかもしれません。

自己否定の心を消すには、理由はいらないと思います。Aさんを含めてすべての存在は、ただ「ある」だけで尊い。存在するだけで尊い。そんな気持ちを伝えられるとよいと思います。

自己否定の心が根っ子から消えてしまえば、「俺様はエライ」と思う必要はありません。また、身の回りの人を「上中下」に分類する必要がなくなるばかりか、分類すること自体もできなくなってしまうと思います。そして誰もが尊い存在に見えてくるのではないかと思います。

そんな気持ちになるように、自己否定の心を消してしまうのがよいのではないかと思います。


(5)伝播

それでは、Aさんの自己否定の心を消せるようになるには、私はどうすればよいでしょうか。

おそらく、私自身の心の中から自己否定の心をすっかり消してしまうことが必要だと思います。それはすぐには無理なので、せめて自己否定の心がとっても少ない人になる必要があると思います。

そうすれば、その状態がAさんにも伝わって、Aさん自身も気がつかないうちに変わっていくのではないかと思います。少しずつ、少しずつ、変わっていくのではないかと思います。


(6)煩悩即菩提

Aさんに人生を破壊された人たちの心のケアも大切です。

怒りの感情のコントロールに苦労しているかもしれません。大きな心の傷に苦しんでいるかもしれません。深い悲しみに苛まれているかもしれません。また、大変な人生を歩んでいるかもしれません。彼らの心は、どうすれば癒されるのでしょう… 彼らの人生は、どうすれば立て直せるのでしょう…

人生を破壊された人たちに、実はAさんも精一杯に生きていることを理解してもらえるでしょうか。怒りの感情の原因は、実は自分自身の中にあることを理解してもらえるでしょうか。Aさんと相性が悪くてセッションに失敗しただけだと、納得してもらえるでしょうか。

それとも、しばらくは苦しみをしっかりと噛みしめることが大切なのでしょうか。潜在意識には、苦しみを分解して栄養分へと変えていく能力があるように思います。やがて時が解決してくれるのかもしれません。それを待つしかないのでしょうか。

苦しすぎて答えはわかりません…