法楽日記

デジタル散策記&マインド探訪記

杉本昌隆(著)『弟子・藤井聡太の学び方』

将棋の藤井聡太二冠(王位・棋聖)の師匠である杉本昌隆八段の著書『弟子・藤井聡太の学び方』を読みました。将棋界における師匠と弟子の関係を垣間見ることのできて、とても興味深い内容でした。(以下、曖昧な記憶をもとに書いているので、勘違いや記憶違いがありましたら申し訳ありません)

一番印象に残ったのは、弟子を強くする方法です。大きく分けて二つあるそうです。

ひとつは、強くなる戦い方を師匠が弟子に教えるスタイルです。弟子が貪欲に吸収すれば、ある程度のレベルまではあっという間に伸びるそうです。しかし地力が強くなった訳ではないので、教えられた以上のレベルに自力で伸びるようになるまでに、時間がかかるそうです。

もうひとつは、弟子が自分でとことん考え抜くのを見守るスタイルです。このスタイルでの師匠の役割は、弟子が伸びやすい環境を整えることになります。弟子は先人の言説を鵜呑みにせず、一手一手の意味合いを自分で納得するまで考えるので、途方もない基礎力がつくようです。そのため、他の人には見えない手が見えやすく、伸び始めたら天井知らずとなるようです。

弟子の適性や目標によって、どちらのスタイルがよいかは変わるようです。藤井聡太二冠の場合は、後者だったそうです。

それから、将棋に対する姿勢についても印象に残りました。

より強くなるためには、時間の長さよりも密度がとても重要なようです。プロを目指す人たちの密度は素人より遥かに濃いと思いますが、トッププロになるような人たちの密度はさらに濃いようです。密度が濃いだけでなく、細切れ時間も有効に使って合計時間がとても長いようです。

喩えるなら、初めて訪れた土地では感性が研ぎ澄まされて普段より時間が長く濃く感じるように思います。憧れの土地であれば尚更だと思います。きっとそれよりも遥かに研ぎ澄まされた感性を持って、大好きな将棋の研究に没頭しているのではないかと思います。細切れ時間も将棋のことが気になって仕方がないのではないかと思います。だからこそ常人を超えた濃さと長さで、長年に渡って取り組めるのではないかと思います。

この本は将棋の世界について書いてありますが、人材育成という観点からは、あらゆる分野で参考になることが書いてあるように思いました。


前述の弟子を強くする方法の話は、教育全般にも当てはまる重要な話だと思います。

一定レベルの人材を多数育てるのであれば、前者の方法論は即効性があって確実だと思います。高度経済成長期のように、目標が明確である場合には有効な方法論かもしれません。

しかし世界レベルの人材を育成しようと思ったら、後者の方法論が必要になると思います。行く先の見えない現代においては、必須の方法論だと思います。

日本の教育システムは前者を前提としているように思います。しかし、世界の先進的な教育機関で取られているのは、後者の方法論ではないかと思います。日本も後者の方法論にシフトしていく必要があると思います。