法楽日記

デジタル散策記&マインド探訪記

ルーク・ドーメル(著)「シンキング・マシン」

ルーク・ドーメル(著)「シンキング・マシン」を読みました。

人工知能(AI)の歴史、現状、懸念、未来がわかりやすく紹介されていました。まず歴史篇として、第1章では「古き良きAI」とも呼ばれる推論エンジン技術が、第2章ではニューラル・ネットワーク誕生からディープ・ラーニングへの進化までが紹介されてました。次に現状篇として、第3章ではモバイルAIとユビキタスAIが、第4章では対話AIが紹介されてました。そして懸念篇として、第5章では人間の仕事を奪うAIと人間を使役するAIが、第6章では創造性を発揮するAIが紹介されてました。最後に未来篇として、第7章ではマインド・クローンが、第8章ではシンギュラリティが紹介されてました。とても興味深い内容でした。


以下、感想です。

(1)近年の人工知能の驚異的な発展は、ニューラル・ネットワーク(特にディープ・ラーニング)によるところが大きいそうです。ネット上の大量のデータを使って高速に機械学習しているそうなので、この技術を適用できる分野であれば、速度面でも精度面でも人間の判断力を遥かに超える人工知能システムはこれからもどんどん登場することと思います。

しかし、ニューラル・ネットワークはあくまで脳の構造を簡略化したモデルなので、脳機能のすべてを真似できる訳ではないと思います。人間により近付いていくためには、新たなモデルの構築が必要ではないかと思いました。

(2)人工知能に創造性を持たせる研究開発が進んでいるそうです。しかしながら、現状の人工知能が創造性を発揮できるのは、成果物を機械的に評価できる分野に限られるのではないかと思いました。そのような限られた分野では、人間の能力を凌駕する創造性を発揮しうると思います。しかし、機械的な評価が難しい分野では、ある一定の段階までは進めても、そこから先は伸び悩むのではないかという印象を受けました。

例えば作詞・作曲の分野では、ヒット曲を学習すれば、「ヒット曲っぽい」楽曲を作ることはできるかもしれません。世代を超えて愛唱される曲を学習すれば、「愛唱歌っぽい」楽曲を作ることはできるかもしれません。しかし、人を深く感動させる曲ができる可能性は低いのではないかと思います。人間の感動の深さや質を測定することは現代の技術ではとても難しいと思うので、機械学習に適さないと思うからです。また、感性は人によって違いますし、一人一人の感性は人生経験を積むうちに変化すると思うので、感動の深さや質を統計的に処理することも大変難しいのではないかと思います。さらに、既存の曲の真似はできても、半歩先行く楽曲を作ることは大変難しいのではないかと思います。したがって現状では、人工知能が人間の新鮮な感動を誘う作品を創作することは不可能に近いのではないかと思います。これは音楽だけでなく、芸術一般に言えることではないかと思います。

(3)人間の脳は電気系と化学系の通信が共存していて全身とつながっています。もしかしたら、人間の知能や情緒を構成しているのは脳だけではなく、体全体が一体となって構成しているのかもしれません。仮にそうであれば、人間の深層心理を学習できる人工知能を作ることは相当に難しいのではないかと思います。(逆に言えば、人間が独創性を発揮できるのは、人間の深層心理を奥深く分け入ることで達成できること、たとえば変性意識の方向にあるのかもしれません)

(4)人工知能は、論理(推論エンジン)系と直観(ニューラル・ネットワーク)系に大きく分類できるのではないかと思います。人間の脳に喩えると、左脳系と右脳系と言えるかもしれません。現代の人工知能の発展は直観系の技術に負うところが大きいようですが、直感系の判断は判定理由を説明できないことが多いのではないかと思います。そこで直感系と論理系を組み合わせて、まず直感系で素早く判断して、その結論を論理系で検証して、検証できなかったときは判断を保留したり却下したりするようなシステム構成が必要な場合があるのではないかと思いました(すでに普及している構成かもしれませんが)。