法楽日記

デジタル散策記&マインド探訪記

アンドリュー・キーン(著)「インターネットは自由を奪う」

アンドリュー・キーン(著)「インターネットは自由を奪う」を読みました。著者はロンドンのベリック・ストリート出身で、現代史と政治学の専門家です。サンフランシスコで起業経験があり、シリコン・バレーに幅広い人脈を持つことから、ネット業界事情に詳しい方です。これまでの様々な経験や知見を元に現代のネット社会に大変な危機感を持っていて、講演や著作を通して現状を憂い、解決策を提案しているそうです。大学教授を長く勤めていたそうなので、現代史の文脈の中でネットを捉えて、政治学の知見を元に解決策を提案しているのではないかと思います。本書は著者による3冊目の著作で、とても興味深い内容でした。

現代社会では多くの人にとってインターネットはなくてはならないものとなっています。人々は日々ネットにアクセスし、友人知人と近況を交換したり、通信販売を利用したり、集客したりしています。また、情報公開や情報収集、意見表明や議論の場にもなっています。たくさんの人々が様々な形でネットを利用し、たくさんの人々が様々な形で活動を支えています。ネットのお蔭で日々の暮らしがとても便利になりました。

ところがちょっと視点を変えてネット社会を眺めてみると、まったく別の側面が見えてきます。お金も情報も一握りの巨大企業に集中的に集まるようになりました。彼らは企業価値を高めるために最大限の努力をします。その結果、創造的活動をしている人々の収入は目減りし、体を張って仕事をしている人々の労働環境は劣悪化しました。利用者のプライバシーは危険に晒され、巨大企業の利益の源泉ともなっています。取引業者は限界まで値下げを迫られ、利用業者は一方的な手数料の値上げを迫られるようになりました。ネットの持つ桁違いの直結力は、一人一人の潜在力を引き出すことには確かに成功しました。しかしそれ以上に、一握りの胴元が一人勝ちするための強力なツールとして猛威をふるうようになりました。

この本では、現代のネットが持つ猛烈な破壊力の影響が様々な視点から取り上げられていました。


以下、感想です。

私はインターネットもお金も本来は中立的な存在ではないかと思います。それが故に、どちらも使う人の心境がそのまま映し出される鏡のよう存在ではないかと思います。現代社会においてネットが凄まじい破壊力を行使しているとすれば、それは人々の心の中にある潜在的な破壊心がネットを通して集積化して、巨大な破壊力となって現実世界に現れて、人々を襲っているからではないかと思います。お金についても同様だと思います。

巨大企業は彼らにとっての正義を遂行します。それは庶民にとっての正義とはかけ離れているかもしれません。安さや便利さの裏側に何が隠されているのか、本当はきちんと調べた上で利用の是非を決めるべきなんだろうと思います。もしかしたら、会ったこともないたくさんの人たちの犠牲の上に成り立つサービスなのかもしれません。巨大な不正が合法的に行われているかもしれません。巨大銀行への預貯金が、知らないうちに巨大企業に投融資されているかもしれません。それらが回り回って自分自身を苦しめ、世界中の人々をも苦しめているのかもしれません。そういった現実を見て見ぬふりをするのは大変に罪深いことではないかとも思います。

様々な報道から見えてくる現実を考えると、現代社会の「普通」の暮らしは、自分自身を含めた沢山の人々の犠牲の上に成り立っているように思います。その結果、人々の生活は次第に苦しくなり、やがては消費者層の崩壊を招くのではないかと思います。そしていずれは、近代以降の社会(企業を中心とした社会)の終焉をも招くことになるかもしれません。巨大企業に限らず、多くの企業も、さらには人々の「常識的」な行動も、多かれ少なかれそれに加担していると思います。ただ、ネット企業は急激に成長し、急速に変化するので、問題を顕在化・巨大化させやすいのではないかと思います。言い換えると、インターネットは世界的な問題の加速増幅装置として働いているのではないかと思います。

一方で、巨大企業が技術開発に勤しみ、新規サービス開発に取り組んでくれているからこそ、現代社会が成り立っているという側面もあると思います。未来を語り、創造力の高いチームを作って、着実に現実化していく。そんな能力があるからこそ、利用者から大きく支持されて巨大企業でいられるのだと思います。このような場面では、インターネットは創造性の加速増幅装置として働いていると思います。

あらゆる存在は多面的だと思います。100% の悪もなければ、100% の善もありません。巨大ネット企業とどのように関わっていくか。様々な企業とどう関わっていくか。世間の常識とどのように関わっていくか。それは現代社会でどう生きていくかということでもあると思います。

とは言え、一人でできることは限られています。また、世の中が期待通りに変わってくれるとも限りませんし、逆に私の期待する方向性が素晴らしい未来、素敵な未来につながるかどうかもわかりません。そんな中で私にでもできることはと考えてみると、せめて自分自身の身の回りだけでも身近で幸せな経済循環を目指したいなと思っています。そのときは、インターネットは私たち一人一人の未来の加速増幅装置として働いてくれることと思います。


本書の感想からは少し外れますが、、

買物するにしても、サービスを受けるにしても、信頼できる個人事業者や独立系事業者を選んで、適正な料金を支払う。先立つものが限られているので実行可能な範囲は限られますが、何もかも巨大企業や大企業に任せるのではなく、少しでも個人経営者や独立系事業者にお金を回した方が、よりよい未来につながるのではないかと思います。そうやって、まずは身の回りから始めたいと思っています。