法楽日記

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安達智則,山本由美(編)「学校が消える! 公共施設の縮小に立ち向かう」

安達智則,山本由美(編)「学校が消える! 公共施設の縮小に立ち向かう」を読みました。いま全国で公共施設の再編が進み、学校の統廃合が進んでいるそうです。その現状と背景がまとめられていました。

備忘録として以下に背景をまとめてみました。

公共施設のマネジメントの最適化・集約化(PPP/PFI など)

平成24年(2012年)12月に誕生した第2次安倍内閣が提唱する経済政策「アベノミクス」は「三本の矢」を掲げています。

アベノミクスの「三本の矢」

  • 〔第1の矢〕大胆な金融政策

  • 〔第2の矢〕機動的な財政政策

  • 〔第3の矢〕民間投資を喚起する成長戦略

そして、平成26年(2014年)9月に発足した第2次安倍改造内閣では、東京一極集中を是正して日本全体の活力を上げるために「地方創生」が提唱されました。基本方針の第2項目で謳われている「ローカル・アベノミクス」は、その名称からも内容からもアベノミクスの〔第3の矢〕「民間投資を喚起する成長戦略」の一環と捉えた方がよさそうです。

ローカル・アベノミクス

  1. 「稼ぐ力」を引き出す(生産性の高い、活力に溢れた地域経済の構築)

  2. 「地域の総合力」を引き出す(頑張る地域へのインセンティブ改革)

  3. 「民の知見」を引き出す(民間の創意工夫・国家戦略特区の最大活用)

その「ローカル・アベノミクス」の第3項目の説明文には次のように書いてありました。

(3)「民の知見」を引き出す(民間の創意工夫・国家戦略特区の最大活用)

人口減少が進む中で民間の創意工夫を最大限活用し、公共施設のマネジメントの最適化・集約化(PPP/PFI など)や企業の少子化克服に向けた働き方改革等を推進。

以上から、アベノミクスの〔第3の矢〕「民間投資を喚起する成長戦略」の実現策のひとつとして、「公共施設のマネジメントの最適化・集約化(PPP/PFI など)」が検討されているようです。

なお、PPP は Public Private Partnership (官民連携)、PFI は Private Finance Initiative (民間資金主導)の略称だそうです。

〔感想〕公共施設のマネジメントの最適化・集約化は、公共機能の産業化のための下準備なのかもしれません。そして不思議なことに、民間投資とは大変に相性の悪いであろう公立小中学校の施設までもが、公共施設のマネジメントの対象に含まれているようです。その結果、「アベノミクス」の一環として小中学校の統廃合が推進されているという側面があるようです。

〔関連〕「経済財政運営と改革の基本方針2015〜2017」(骨太方針)でもPPP/PFIの推進を謳っています。

公立小・中学校の適正規模化

平成26年(2014年)12月に閣議決定されたまち・ひと・しごと創生「総合戦略」では、4つの「基本目標」を掲げています(p.11〜13)。

4つの「基本目標」

  1. 地方における安定した雇用を創出する

  2. 地方への新しいひとの流れをつくる

  3. 若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる

  4. 時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する

そして、基本目標4に対応する政策パッケージには次のように記されています(p.46〜47)。

(4) 時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する

(4)-(ア) 中山間地域等における「小さな拠点」(多世代交流・多機能型)の形成

(4)-(ア)-(2) 公立小・中学校の適正規模化、小規模校の活性化、休校した学校の再開支援

このように、「総合戦略」の政策パッケージの中で「公立小・中学校の適正規模化」が謳われています。

〔感想〕公立小中学校の適正規模の判断基準には様々な考え方があると思いますが、「総合戦略」の基本目標4では都市のコンパクト化と都市間の機能連携・ネットワーク化を指向していることから、一定規模以下の公立小中学校を統廃合する方向に政策が取られているようです。

〔関連〕コンパクト化とネットワーク化は自治体の中で行われるだけでなく、自治体間でも階層構造を導入して公共機能の集約が行われるようです。その際の階層構造は、首都圏→三大都市圏→連携中枢都市圏→定住自立圏→その他、となるようです。

小中学校の統廃合

上述のような流れの中で、「公共施設のマネジメントの最適化・集約化」の対象として各自治体が一番手をつけやすかったのが、「公立小・中学校の適正規模化」だったのかもしれません。

公共施設のマネジメントの最適化・集約化における数値目標は、延床面積の縮減率で設定されるそうです。小中学校は体育館や特別教室があり、学校数も多いため、自治体の運営する施設全体における延床面積の割合は結構大きいのではないかと思います。そのため小中学校を統廃合すれば、延床面積の縮減率を大きく見せることができる自治体は多いのではないかと思います。

しかし、小中学校の統廃合は、子供たちや親世代、各学区の方々に大きな負担をかけることと思います。特に、スクールバスで通学することになる子供たちへの負担は大きいのではないかと思います。また、小学校は地域の象徴的な施設だと思いますので、閉校を悲しむ方々は多いのではないかと思います。一方で、統廃合によって教育機会自体が奪われる訳ではなく、逆に生徒数の多い学校に通えることを歓迎する方もいらっしゃるでしょうから、行政の方針に対して大きな反対は起きにくいのではないかと思います。そのため、自治体から見ると小中学校の統廃合は推進しやすい案件なのかもしれません。

ただし、小中学校の統廃合を進めても、前述のアベノミクスの〔第3の矢〕「民間投資を喚起する成長戦略」にはほとんど結びつかないのではないかと思います。小中学校の統廃合が必要な地域に私立小中学校が進出してくる可能性は低く、閉校施設はそのまま遊休施設になっているところが多いからです。

本来でしたら小中学校のあり方を考える際には、子供たちの教育はどうあるべきか、地域の文化はどうあるべきか、と言ったことを第一に考えるべきだと思います。ところが前述のように、小中学校の統廃合は役所の数字合わせのために行われているように思われます。その結果、子供たちや地域住民がシワ寄せを一手に引き受けざるを得ない政策が推進されているのかもしれません。

近年推進されている小中学校の統廃合がなんだかとても不思議な政策に思えてきました。


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