法楽日記

デジタル散策記&マインド探訪記

経産省若手プロジェクト(著)「不安な個人、立ちすくむ国家」

経産省若手プロジェクト(著)「不安な個人、立ちすくむ国家」を読みました。公開以来150万ダウンロードを記録した同名の報告書に手を加えた完全版を冒頭に掲載し、経産省若手プロジェクト・メンバーと養老孟司冨山和彦東浩紀各氏との座談会、及びプロジェクト・メンバーから6名のインタビューを収録して作られた本です。

報告書を拝見しながら、プロジェクト・メンバーはとても優秀な方々ばかりなんだろうなぁと思いました。優秀ではない私には直接的な感想を論じる力量がないどころか、報告書の意図とはおそらく全く異なる視点からの感想ばかりが浮かんできました…


そんな私の感想を以下に書きます。

多くの日本人は、暗黙の『縄張り』意識と暗黙の『上下』関係意識を持っているのではないかと思います。そして自分の『縄張り』は自分で仕切りたいと思っていて、『上』には面と向かっては逆らわないものの、『下』には自分の言う通りに従わせる、という傾向があるように思います。そのため、究極の『上』の存在である『お上』の言うことに対しては、陰口は叩くことはあっても面と向かって逆らうことは少ないのではないかと思います。また、お互いに相手の『縄張り』を尊重して、口出しを良しとしない傾向があるように思います。お互いに「よきにはからえ」とか「触らぬ神に祟りなし」などと思っているのかもしれません。そのため、皆で一緒に考えるよりも「任せ・任される」関係や「餅は餅屋」のような任せ方が好まれる傾向があるように思います。また、他人と揉めるくらいなら上意下達が楽で良いと思っているのではないかと思うこともあります。日本人のこのような意識と傾向は、近代の民主主義と相性が悪いように思います。日本でもオープンでフラットでお互いにリスペクトしあって、自由闊達で建設的な議論が好まれる文化が広く醸成できると素晴らしいなと思います。

このような意識と傾向は、世間の『常識』なるものに対しても適用されているように思います。日本人は事実と推理と空想の区別が苦手で、事実よりも空想(思い込み)を重視する人が多いことも、そのような傾向に拍車をかけているのではないかと思います。そのため、自分の『縄張り』では「自分が正しい」と信じて疑わない一方で、『上』=権威ある人たちの話を(上意下達よろしく)鵜呑みにすることが好まれ、逆に『下』に対しては自分の思い込みを押し付ける、という傾向が見られるように思います。このように、世間の『常識』が人々の空想(思い込み)と上意下達によって形作られているため、裏取りは忌避されることが多く、結果的に世間の『常識』が強烈な慣性力を持って人々を縛っているのではないかと思います。日本でも事実と推理と空想をきちんと区別して、自らの手足と頭を使って事実を極めていく文化が広く醸成されると素晴らしいなと思います。

日本にも、自らの手足を動かして調査・仮説・実験・考察を繰り返して、優れた知見と実績を積み重ねている人は少なからずいると思います。そういった人たちは、世間の『常識』にとらわれないが故に『権威』からほとんど相手にされず、そのため世間から注目を集めることもあまりなく、地道に活動しているのではないかと思います。そういった人たちを見出して、草の根で地道にサポートできる文化が広く醸成されると素晴らしいなと思います。

ところで、どんな状態が幸せであるかを決めるのは、世間の『常識』ではなく、一人一人の心だと思います。空想の思い込みではなく、心の奥底にある本心だと思います。日本人は思い込みが強すぎて、自分自身の本心を見極める力が弱いのではないかと思うことがあります。どんな状態に幸せを感じるのか、自分自身の気持ちを正直に感じたり、自分自身の本心に従ってしっかりと掘り下げて考える能力はとても重要だと思います。頭で考えると世間の『常識』や目先の見栄にとらわれやすいと思うので、自分自身の本心に素直に従うことが尊ばれる文化が広く醸成されると素晴らしいなと思います。

以上、報告書に対する感想というよりも、日本の社会に対する感想でした。


この本で取り上げられた報告書「不安な個人、立ちすくむ国家」は、平成29年(2017年)5月18日に開催された「第20回 産業構造審議会総会」(経済産業省)で配布された資料のひとつだそうです。平成28年(2016年)8月に発足した菅原郁朗事務次官(当時)と20〜30代有志30名による「経済産業省次官・若手プロジェクト」の一環として作成されたものだそうです。

この報告書を元に、本書を含めて下記2冊の書籍が出版されています。